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  • 2025.03.13

    「ASEAN-JAPAN ACTIONS ON SPORTS: GENDER EQUALITY WORKSHOP IN PHILIPPINES 2025」 をフィリピン政府と共催で開催しました

スポーツ庁の委託事業として、SGEが進める「ASEAN-JAPAN Actions on Sport: Gender Equality」。このプロジェクトでは、日本とASEAN10カ国及び東ティモールの政府が協力し、スポーツを通じたジェンダー平等の実現に取り組んでいます。このプロジェクトの一環として、2025年1月8日から2日間にわたり、フィリピン?マニラでワークショップを開催しました。

 今回のワークショップは、2024年1月にベトナム?ハノイで開催されたワークショップに続く形で実施されました。前回のワークショップでは、2020年にUN Womenが発表した「Sport for Generation Equality Framework(参考訳:平等を目指すすべての世代のためのスポーツ枠組み)」に基づいて、各国毎に2つの優先課題を定めました。このUN Womenの枠組みは、スポーツ現場におけるジェンダー平等を推進していくための次の6つの原則を定めています。

UN Women Sport for Generation Equality Framework

 今回のワークショップでは、この優先課題に対する取り組みの「モニタリングと評価」に重点が置かれ、主に次の2つの目的を掲げて、さまざまな情報共有とディスカッションが行われました。

1)各国のスポーツ政策におけるジェンダーの主流化の進捗状況を可視化できる指標及び指標に基づいたデータの収集方法とモニタリング方法を定義すること

2)ASEAN加盟国間で進捗状況を可視化するために、共通のジェンダー別の指標を定義すること

ASEAN10ヵ国に加えて、初参加となる東ティモールからの代表者も迎え、27人が出席しました。

DAY1(1月8日)

Opening

 初日のオープニングセッションでは、共同ホストであるPhilipene Sports CommisionのOlivia “Bong” Coo氏の挨拶がPSCのAbellana氏によって代読されました。また、ASEAN事務局のSenior Officer of Education Youth and Sports DivisionのJoel Atienza氏から本ワークショップへの期待を込めた挨拶が行われました。
 また、SGEを代表して挨拶を行った副センター長の野口亜弥は、ASEANと日本の取り組みがUNESCOをはじめとする世界から注目を集めていることに言及し、関わるすべての人々に感謝の意を示した上で、次のように述べました:「スポーツにおけるジェンダー平等の推進に向けた皆さんのコレクティブ?アクションの一助になれていることを光栄に思います」。

  • 代読挨拶を行うAbellana氏
    代読挨拶を行うAbellana氏

  • 挨拶を行うSGE副センター長の野口亜弥
    挨拶を行うSGE副センター長の野口亜弥

挨拶を行うASEAN事務局のSenior Officer of Education Youth and Sports DivisionのJoel Atienza氏
挨拶を行うASEAN事務局のSenior Officer of Education Youth and Sports DivisionのJoel Atienza氏

 続いて、ASEAN事務局のAtienza氏が、ASEANがスポーツ分野でジェンダー平等を進めるために策定したさまざまな計画や枠組みについて紹介しました。具体的には「スポーツにおけるASEANスポーツ五か年計画2021-2025(ASEAN Work Plan on Sports 2021-2025)」や「ASEAN Gender Mainstreaming Strategic Framework」などが取り上げられました。Atienza氏は、これらの取り組みを進める中で、依然として財政的?資源的制約やデータの集約と拡散といった幅広い課題に直面していることに言及。「これは、スポーツ分野を含むさまざまな分野でジェンダー主流化をより調和的かつ加速的に実施するために、引き続き協力し合い、知識を共有し、ターゲットを絞った支援が必要であることを浮き彫りにしています」と呼びかけました。

導入:前回のワークショップのレビューと今年のワークショップの目的
SGE 副センター長 野口亜弥

第1セッションでは、SGE副センター長野口が、前年度までの本プロジェクトの振り返りと、今回のワークショップにおけるゴールに関する共通理解を深めるための情報共有を行いました。
 まず、2023年から2026年にかけて計画されているロードマップについて解説。「ジェンダー主流化」に関する理解を深めた2023年のワークショップに続き、今年のテーマは「モニタリング&評価」。また、昨年度のワークショップで設定された各国ごとの優先課題についても改めて共有されました。

(写真2)各国ごとの優先分野

 
「M&E(Monitoring and Evaluation)とは何か?」
SGE 副センター長 野口亜弥
Global Observatory for Gender Equality & Sport ,Research Director, Dr. Lombe Mwambwa氏


 最初に、野口から「モニタリング」と「評価」の定義について説明。「公共政策においては、意思決定が信頼できる証拠に基づいて行われ、望ましい結果をもたらすことを確実にするのに役立つ」と、これらがいかに重要な役割を果たすかを明確にしました。
 加えて、植民地支配を経て近代化を遂げた歴史を持つ国が多い、東南アジア諸国におけるジェンダー規範のユニークさについても言及しました。西洋諸国とは異なる規範を持つからこそ、スポーツ現場におけるジェンダー平等を推進していく上で「モニタリングと評価が強力なツールとなる」と話しました。

また、収集できるデータには、現象の特徴や説明、質を捉える「質的データ」と、測定や計算、統計的に分析できる数値情報である「量的データ」の2種類があることを解説しました。その上でUN Womenの「Sport for Generation Equality Framework」の各原則を測定するための指標の具体例について触れました。

 
「スポーツ政策とデータ収集におけるグローバルな取り組みや戦略はどのようなもので、なぜデータが重要なのか?」
Global Observatory for Gender Equality & Sport, Research Director, Dr. Lombe Mwambwa氏


このセッションでは、地域レベルおよびグローバルレベルでのデータ収集と、それらのデータを活用した政策策定との関連についての具体的な事例が共有されました。Mwambwa氏は、UNESCOの「Fit for Life」をはじめ、Commonwealthや欧州、中南米のスペイン語?ポルトガル語圏諸国で構成されるIberoAmerican Sports Councilなど、国際社会における代表的な取り組みの事例について解説しました。その上で、データと政策の取り組みにおいて考慮すべき次の3つの重要な点を共有しました。

1)ASEAN地域とスポーツ分野に直接関連する指標とデータプロセスを確保すること

2)可能な限りASEAN地域およびスポーツ分野に関連した定義を整えること

3)セクターや地域を超えて協力し、共通の学びとリソースの最適化を図ること

 
各国からのプレゼンテーション

 午後のセッションでは、参加国によるプレゼンテーションが行われました。参加者は、自国の「ジェンダー平等を推進するための取り組みの実績」や「リーダーシップ、コーチング、ジェンダーに基づく暴力、メディア等の分野に関する既にあるデータ」、そして「データ収集における課題」について10分間の発表を行いました。発表を受けて、情報提供者の一人であるPortas Consulting 日本オフィス代表取締役の井上智晶氏は、意思決定層にジェンダーの多様性が見られていることは「素晴らしいこと」と評価した上で「彼らを受け入れる環境についても考えなければならない」と、ジェンダー平等を前進させていくためには、数字だけでなく質的な状況にも目を向けていく重要性を説きました。

 
ケーススタディ:地域政府の取り組み - EU?欧州評議会
Council of Europe, Senior Project Officer at Joint EU-CoE project? All In Plus ? - Promoting greater gender equality in sport, Sport Division, Olivia Conrad 氏


 1日目の最後のセッションでは、EU?欧州評議会共同プロジェクト<All In Plus>のSenior Project OfficerのOlivia Conrad氏によって、All in Plusの事例が紹介されました。「All in Plus(2023年3月?2025年2月)」は、スポーツにおけるジェンダー平等の推進がもたらす利点を強調することを大きな目標としており、ヨーロッパの21ヵ国がパートナーとして参加しています。特に、スポーツにおける女性の相対的な不可視性や、スポーツにおけるジェンダーの不均衡や関連する課題に対する意識の低さを明確に浮き彫りにすることを目的としており、「データ収集と分析」「好事例を集めたオンラインリソースセンター」「メディアの意識啓発:研修とコンテンツ制作」の3つの柱を中心に活動を展開しています。

 データ収集を基盤とするこのプロジェクトのシニア?オフィサーを務めるConrad氏は、スポーツにおけるジェンダー平等推進のためのデータ収集の利点について、次のように説明しました。一つは不平等が存在することを明確に示す点です。Conrad氏は「このような具体的な証拠がなければ、いかなる差別も否定され、結果として永続的に続くことになりかねない」と強調しました。また、データによって「優先順位を設定し、より情報に基づいた意思決定を行うことができる」と、データが具体的な実践事項を提言する際の重要なツールとなることを共有しました。

DAY2(1月8日)

ケーススタディ #1 日本の取り組み
SGE 副センター長 野口亜弥

 2日目は、2つの事例の情報提供とともにスタートしました。まずは、SGE副センター長の野口が日本政府の事例について解説。競技団体のガバナンスコードの内容、どのような方法でどの程度の頻度でそれらがモニタリングされているのか、そして日本の女性のスポーツ参加率のデータの収集方法について共有されました。

 
ケーススタディ #2 コンサルティングとのコラボレーション
Portas Consulting Japan Office Lead, 井上智晶 氏


 次に、世界各地の政府、競技団体、スポーツ関連企業に対して戦略的なアドバイスを提供しているPortus Consultingの井上氏が、データ収集がどのように女性や女の子のスポーツ参加を促進するための政策提言やキャンペーンに活かされているかについて、国際的な事例を交えて解説しました。井上氏は、データ収集の重要性を強調した上で、データを効果的に活用するための4つの一般的なステップを紹介しました。これには、まず問題の定義、次にデータの収集とクリーニング、その後にデータ分析を行い、最後にレポート制作とプレゼンテーションという一連の流れが含まれます。井上氏は、このプロセスが地域的な文脈を十分に理解した上で実施されることが、戦略を成功に導くために不可欠であることを強調しました。

 さらに、井上氏は、1ヵ国だけでなくASEAN地域全体で取り組むことで「ベンチマークと比較に基づく洞察」「その後の戦略における協力の機会」「統計的な正確さとより良い分析を可能にする大規模データ」「コストの削減」といった利点をもたらすことを強調し、参加者に新たな視点を与えました。

 
スポーツにおけるジェンダーの取り組みに関するデータのモニタリング評価指標の策定に向けた戦略プランニング:各国グループワーク

 全ての情報提供のセッションを終え、各国毎のグループワークの時間が設けられました。約3時間をかけて、優先分野に関連する課題の特定、中長期的にもたらしたい成果と目標、それを測るための指標、誰と連携してどのようにデータを集めるのかといった具体的なアクションを話し合い、発表を行いました。

 最後には、「ASEAN加盟国としてジェンダー平等の推進を測定するための共通の指標が必要か?」というテーマでディスカッションが行われました。参加者は、共通の指標は必要という見解で合意しました。その理由として、基準や共通の目標を設定できることや似通った課題に対して集合的に取り組むことができる点が挙げられました。また、考えられる指標として、スポーツ参加率やリーダーシップやコーチングに関わる女性の割合、さらにはジェンダーに基づく暴力を相談するための窓口の有無などのアイデアが共有されました。

 一方で、ディスカッション中にはいくつかの懸念も浮上しました。予算や宗教的?文化的な違い、調査を行うためのテクノロジーへのbet36体育在线制限、また、誰が主導し、どのようにコーディネートするのか、さらにはデータをどのように活用するのかといった問題についても言及されました。

 
クロージング

 全セッションを終え、関係団体の代表者からの挨拶でワークショップは締めくくられました。Philippine Sports CommisionのRichard E. Bachmannチェアマンは、ASEANのスポーツを通じたジェンダー平等への取り組みに向けた連帯を祝し、「私たちは、ここで共有されたメッセージを広め、それが国内にとどまらずASEAN地域全体に届くようにし、さらに世界のスポーツコミュニティにおける基準を加速させることに尽力します」と、今後の歩みに向けて意気込みを語りました。

 続いて、ASEAN事務局のJoel Atienza氏は、今回のワークショップが非常に価値あるものだったと振り返り、関係者と参加者全員への謝辞を述べました。

 最後に、当センターの野口副センター長は、「成果を指標にするということは挑戦になると思っていましたが、今回のワークショップで良いディスカッションができて嬉しく思いますし、スポーツにおけるジェンダー平等の分野にとって、とても大きな一歩になったと思います」と、2日間を振り返りました。

Philippine Sports CommisionのRichard E. Bachmannチェアマン
Philippine Sports CommisionのRichard E. Bachmannチェアマン

  • 挨拶を行うASEAN事務局のSenior Officer of Education Youth and Sports DivisionのJoel Atienza氏
    挨拶を行うASEAN事務局のSenior Officer of Education Youth and Sports DivisionのJoel Atienza氏

  • 挨拶を行うSGE副センター長の野口亜弥
    挨拶を行うSGE副センター長の野口亜弥

 今回のワークショップの内容を踏まえ、今後、各国ごとに進捗のフォローアップが行われる予定です。ジェンダー主流化の視点を取り入れた根拠に基づいたスポーツ政策の策定に向けて、取り組みは引き続き進められていきます。