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  • 2025.03.04

    SGE YouTube チャンネル「Sport for Social Solutions (SSS) 」#11 を公開しました

SSS#11 日ASEANブルネイ調査報告

成城大学スポーツとジェンダー国際平等bet36体育在线センター(以下、SGE)は、YouTubeチャンネル『Sport for Social Solutions (SSS)』を運営しています。本チャンネルでは、専門家や行政関係者、アスリートなどの幅広いゲストとともに、社会課題解決のプラットフォームとしてのスポーツに光を当て、情報提供や意見交換を行います。

成城大学スポーツとジェンダー平等国際bet36体育在线センター YouTubeチャンネル:

SSS第11回目のテーマは「日ASEANブルネイ調査報告」。

成田空港から直行便で約6時間。三方をマレーシアに囲まれ、三重県ほどの面積に豊かな天然資源を有する小さな国、ブルネイ。東南アジアで唯一、絶対君主制を敷き、国教にイスラム教を定めるこの国の、スポーツ実施の状況はどのようなものなのでしょうか?

スポーツ庁の再委託事業として、SGEが進める「ASEAN-JAPAN Actions on Sport: Gender Equality」では、日本とASEAN10カ国の政府が協力し、スポーツを通じたジェンダー平等の実現を目指しています。このプロジェクトの主要な取り組みの一つとして、2023年から、日ASEAN諸国の女性および女児のスポーツ参加における課題とニーズを明らかにするための実態調査が行われています。

5ヵ国目の調査国はブルネイ。SGEポスドクbet36体育在线員の古田映布が、現地を訪れた宮澤優士に、その実情を問います。ブルネイの女性のスポーツ参加の実態や宗教がどのように交差しているのか、調査を振り返ります。

これまでの調査国の報告は、以下の記事をご覧ください。
インドネシアベトナムフィリピンカンボジア

ブルネイはどんな国?

日本にはあまり馴染のない国、ブルネイ。国王が国家首相を兼ねる絶対君主制の国であり、イスラム教を国教に据える厳格なイスラム国家でもあります。現地を訪れた宮澤は、この特徴が街中でも顕著に感じられたと話します。イスラム教徒が祈りを捧げる場所であるモスクよりも高い建物は存在せず、ショッピングモールも存在しないため、他の東南アジア諸国とは異なり、外資系企業の店舗はほとんど見られません。

さらに、「国王が所有している会社が非常に多かった」とも話し、航空会社からコーヒーショップ、ジムに至るまで、国が運営する企業が数多く存在しています。また、豊かな石油産業を背景に、国自体が裕福であり、そのため国民に課せられる税金は非常に少ないといった、ブルネイならではの特徴について解説しました。

スポーツ実施状況と宗教の影響

続けて、このような独自の社会体制を築くブルネイのスポーツ実施状況について、古田が尋ねると、宮澤はインタビューで得られた知見を共有しました。まず挙げられた特徴として、男性はサッカー、女性はネットボールといった具合に、性別によって行うべきとされる競技種目が異なる点が挙げられました。宮澤は「女性がスポーツに参加する機会が少なく、女性がするスポーツは限られている」と指摘する一方で、男性もまた、女性が行うべきとされるスポーツからは排除されている側面についても触れました。このように、ブルネイでは、性別によって参加できる競技の幅に大きな制約があることが明らかになりました。

これには宗教的な背景も強く影響しています。ブルネイは、男子サッカーが盛んな一方で、女子サッカーは存在しません。ブルネイには、一般法と、イスラム法の専門家による宗教的な判断や見解であるファトワ(Fatwa)によって解釈されたシャリア刑法の二つの法律が併用されています。このイスラム教の教えに基づくシャリア刑法の中に、身体的接触や露出が多いサッカーは女性にはふさわしくないと明確に記載があることから、女性はサッカーをすることができません。

このように、ブルネイ女性のスポーツ参加には、宗教的背景が色濃く絡まり合っています。ただし、イスラム教では男女は上下関係にあるのではなく、「役割の違い」であるとされています。インタビュー対象者からも、この視点が強調されており、スポーツにおけるジェンダー平等を考える上で、ブルネイの宗教的背景を考慮する必要性がうかがえました。

生涯スポーツの推進


次に、宮澤は、調査を通じて得た気づきとして、ブルネイのスポーツ推進のあり方にも触れました。「スポーツ?フォー?オール(みんなのためのスポーツ)の考えがあって、草の根スポーツはものすごく広がっていた。広い歩道で、何人も夕方になったら走り始めますし、女性が一人で走っていることもあった。逆に競技スポーツにあまり重きを置いていない印象を受けた」と語りました。

女性が実施するスポーツの多くは屋内のものが多いものの、エクササイズを行う場所は多く存在しており、健康のためのスポーツの文化が広く浸透しています。また、主に競技スポーツを扱う国内オリンピック委員会や国内競技連盟は、ボランティアのメンバーで構成されていることからも、ブルネイ政府の草の根スポーツを重視する姿勢が伺えました。

最後に宮澤は、特徴的な社会体制や国教を持つブルネイの調査を振り返り、「女子サッカーをやった方が良いとか、できていないのがおかしいというのではなく、彼らがやりたいスポーツは何か、やらなければならない課題は何かをしっかり洗い出した上で、(この事業を)進めていくことが調査事業の意義」だと述べ、各国の文脈に合わせたアプローチの重要性を指摘しました。

また、古田は「ASEAN諸国の良いところは、他の国の事例がすぐ近くにあり、自分たちも似たような状況にあることを理解しているからこそ、他国の成功事例や取り組みについて、情報を交換し合うことができている」と語り、本事業を通じてASEAN諸国全体が共に歩んでいく力強さについて改めて強調しました。