指宿 信 教授「刑事政策」
-多様な手法を取り入れた、インストラクショナルデザインに基づく緻密な授業-
氏 名:指宿 信(いぶすき まこと)
所 属:法学部
職 名:教授
専門分野:刑事訴訟法
対象者:法学部3?4年生
授業形態:講義
実施学期:2018年度通年
履修者数:79 名
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授業内容と取材当日の授業について
本授業は法学部の3?4年生に開講された専門科目(自由選択科目)であり、刑事政策に関連する基礎理論(犯罪学を含む)から犯罪対策論までを、隣接諸科学の知見に学びながら習得する授業内容となっている。授業は講義だけではなく、ドキュメンタリーや啓蒙ビデオの鑑賞、グループ討議や全体討議、ゲストスピーカーによるレクチャーなど、様々な手法を取り入れて進められている。なお、到達目標は、第一に、犯罪原因と犯罪対策についての基礎知識を習得する、第二に、法的思考方法に限らず政策的思考法を学ぶ、第三に、現実に起きている事象の科学的把握のための方法論や、価値判断だけに依存しない解決方法の思考を知る、ということが挙げられている。
取材当日の授業は、以下の流れで進められた。
■2018年6月4日
取材当日の授業内容は、「犯罪と刑罰(死刑)」をテーマとする回であり、死刑に関する被害者家族と加害者家族がともに旅をするという、米国のドキュメンタリーを鑑賞する日であった。
冒頭で映像に関する解説、次回授業の予告が行われ、コメントシートを配付してから上映が行われた。教室は通常と異なり、図書館のAVホールにて行われていた。
本授業の一週前の授業において被害者問題に関する講義を受けていることもあり、学生たちは静かに見入って、それぞれが考えを巡らせている様子であった。
■2018年6月11日
この日は、事前に法学部の教材配付サイトを通じて配付されていた刑事裁判の判決を、時間外学習としてあらかじめ読んでから授業に参加する反転授業の手法がとられていた。 授業と宿題の役割を「反転」させた授業形態。授業時間外にデジタル教材等により知識習得を済ませ、教室では知識確認や問題解決学習を行う。 ひとつの授業科目を設計する際、最適な教育効果をあげるための方法を設計?開発する方法論。個々の学習項目を分析的?システム的にアプローチすることで、授業の質を高めることを目指す。
判決に関する事件の概要等、授業の冒頭に指宿先生から解説があった後、学生たちは教室内を移動してグループを作り、判決に関するそれぞれの意見を聞き合うピアリスニングが始められ、ある程度の時間が経過すると、学生たちは次の相手を求めて席を移動し、また新たなグループを作るなど、主体的に活動している様子が見られた。
その後は、ピアリスニングを通して捉えた自らの考えをコメントペーパーに書き込む時間がとられた。全員が静かに、真剣に取り組む様子が印象的であった。
「死刑」に関する自分の意見が固まったタイミングで、指宿先生から「死刑への賛否」が投げかけられた。その際、学生自身が集中して自分の考えをまとめることができるように、また、相互の意見が分からないようにという配慮も込めて、全員が机にうつ伏せて、各自が手を挙げ、「賛成」「反対」を主張するというスタイルがとられた。
最後に、自らの賛否に関する意見を用紙に書き込んで授業が終了となった。用紙は提出不要で、学生各自が考えをまとめるためのものであった。この90分の授業を通し、ピアリスニング、コメントペーパー、自身の意見記入など、学生たちの執筆文量が多いことに強い印象を受けた。
■2018年6月18日
事前に法学部の教材配付サイトを通じて配付されていた資料を基に、写真や図表、映像などを多く活用して講義が行われた。
教員自身の意見を示すわけではなく、学生自身の考えを促進させることを目的として進められていることが伝わってきた。
取材で伺った全ての授業を通して感じたのは、学習効果を高めるため、インストラクショナルデザインに基づく緻密な授業と教材作成に取り組まれている、という点であった。
用語解説
反転授業
×
用語解説
インストラクショナルデザイン
×
教員インタビュー(Q&A)
Q.授業のポイントを教えてください。
A. 授業を通して学生の物の見方に変化を引き起こしたいと考えています。
例えばゲストスピーカーをお招きする場合は、その一週前の授業で導入を行い心理学、社会学といった様々な面に光を当てて学ばせ、多角的な物の見方があることを伝達します。そうして、学生自身に考えさせることに重きを置くようにしています。
多数の手法を取り入れていますが、特にピアリスニングは、学生自身が考え、感じたことを重視できるよう、あえてディスカッションはさせていません。成城生はおとなしい学生が多いように感じるので、自らの考えを発信したり、整理したりする機会を作るために、このような手法をとっています。
また、学生には教材として、実際の条文や判例に触れ、事件の背景や原因を深く考えさせるようにしています。
Q.コメントペーパーをどのように活用しているか教えてください。
A. グループワークやゲストスピーカーをお招きする授業で活用しています。回収後に内容を見て、全員で共有するべき内容が書かれている場合や、回答が必要となるような質問が記載してあった場合は、次回の授業で回答しています。
また、ゲストスピーカーには学生の考えをお伝えしたいので、コピーをお渡ししています。
Q. 学生への期待を教えてください。
A. 「法学」に閉じず、世の中には多角的な視点があるということを学生に知ってもらいたいと思っています。それらは、社会に出たとき、きっと自らを助ける力となるはずです。
学生インタビュー(Q&A)
Q. この授業を履修したきっかけは何ですか?
A. すでに履修したことがある先輩から「自分の価値観が変わった! 」と強く勧められたからです。特に、ゲストスピーカーからのレクチャーもある、という情報を聞いて履修を決めました。
Q. この授業の良いところは何だと思いますか?
A. 講義形式だけでなく、図書館で映像を見たり、ピアリスニングを行ったり、ゲストスピーカーからのお話が聞けたりと、いろいろな手法で授業が実施されるところです。私は会社法のゼミナールに所属していて、履修科目で刑法や刑事訴訟法に係る授業はこの科目だけなので、毎回の授業が新鮮です。実際の刑務所の現状や実態なども知ることができ、大きな学びになりました。特に次回の授業では、受刑経験のある方から直接お話が聞ける貴重な機会なので、とても楽しみにしています!
Q. 履修前後で何か自分に変化がありましたか?
A. 家庭環境によって犯罪を起こしやすくなってしまうなど、加害者心理を考慮しながら犯罪を考えられるようになりました。
A. 被害者?加害者心理まで学べるため、ひとつの事件をいろいろな視点から深く考えることができるようになりました。
Q. 他学生へのメッセージがあれば教えてください。
A. 他の授業に比べて資料を読んで議論する機会が多くあり、刑法に興味がなくても興味が持てるようになりますよ。
A. 他の授業は暗記が多い中、この授業では被害者の感情や心理を学べるので、幅広い視点を身につけることができると思います。
※インタビューは合計3名の学生にご協力いただきました。
授業の流れ
①導入〈10分〉
②ピアリスニング〈30分〉
③コメントペーパーの記入〈15分〉
④意見交換と自らの意見の記入〈35分〉
用語解説
ピアリスニング
聴解の過程をピア(学生同士)で共有し、協力しながら理解を構築していくアクティブ?ラーニングの手法の 一種。本授業では、友達以外とペアやグループを組むこと、自分の意見を言わずに相手の意見だけを聞くこと、合計3名以上の意見を聞くこと、といったルールを課している。